第13話
皆さんは、虫の知らせを聞いたことはありますか?
中国の道教では、体内に三戸(さんし)という虫がいて、人の寿命を司る死命神(しめいしん)が放ったといいます。寝ている間、人の悪行を神様に報告するらしいのです。ただ、一般的には、何か良くないことの前兆として考えることが多いですね。
あれは中学二年生の夏のことでした・・・
その日も暑い一日でした。学校から帰宅し、ほてった体を扇風機で冷ましながら、サイダーを飲み干し、トイレに入りました。当時、汲み取り式の古いトイレで、落ちたら怖いなぁ・・と子供ながらヒヤヒヤしていました。窓も枠組みから、熱風が入り込んでいました。
すると突然「ギャー・・」という悲鳴と共に、昔、祖父が経営していた隣のアパートの、金属製の階段を、ものすごい勢いで「ガンガラ!ガンガンガン!」何かが下まで転げ落ちていく音を聞いたのです・・何事かと思い、すぐにトイレから飛び出し、その場にいた祖父や母親、従兄弟達にそのことを話し、すぐに階段を見に行きました・・
でも・・何かが転げ落ちたような痕跡はありませんでした・・
家族の反応は「何を言ってるの?」「そんな音はしなかったよ」と言われ誰もその音を聞いてはいなかったのです・・あのような大きい落下音を誰も聞いていないなんて・・
しかも悲鳴まで聞こえてきたのに・・
腑に落ちないまま夕食を済ませ、テレビを見てからお風呂に入りました。古い家なのでギシギシとそこらじゅうから「家鳴り」が聞こえます。のんびり風呂桶につかっていると・・「うぅ・・うぅ・・」と天井裏から、うめき声らしき音が聞こえてきました・・!!家鳴り?・・野良猫かな・・?・・
猫は外から湯沸かし場の煙突に沿って家の中に入ってきていたので、野良猫と思いました・・
しかし、何も、誰もいませんでした・・奇妙な胸騒ぎを覚えながら、お風呂から上がりました。
「リンリンリンリン・・」その夜、鈴虫かコオロギなのか、虫の鳴き声がやけに気になりました。
私は十二畳の仏間で寝ていました。寝苦しい夜でした・・時計は午前1時を過ぎていました。夢の中で、どこかの廃墟の中を手探りでさまよっているときに、暗がりから男が急に飛び出してきて、自分の上にのしかかってきたのです!慌てて、振り払おうと、反動で何度も殴りつけました・・
こぶしに激痛を覚えながら・・何度も何度も・・落ち着いてから部屋の電気をつけてみると・・
そこには着物をかけるハンガー(衣桁・いこう)が、無残にもバラバラになっていました・・ハンガー!?・・確かに男だったのに・・どうして・・
手からは血が流れ、しばらく放心状態でした。夢かうつつか・・この夢は?・・あの男は?
トイレで聞いた叫び声、風呂時のうめき声・・そして・・
翌朝、アメリカに住んでいる祖父の友人家族から連絡があり、親友のスミスさん(仮名)が亡くなったことをしらされました・・
スミスさんは戦時中の満州で、ソ連兵に捕まった祖父が、処刑されそうになった前日、助けてくれた米軍の軍医でした。祖母が看護婦だったこともあり繋がりがあったのでしょう・・
ただ、私が体験したこのことが虫の知らせだったかは定かではありませんが、祖父に聞いたことによると、スミスさんは冗談が好きで、人を驚かせたりすることが好きだったようです。それにしても怖かったなぁ・・