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第28話

さて、時は1868年、明治新政府は理想を実現させるために神道国教化方針を採用し、神仏分離令を発令しました。さらに藩に帰属していた者の忠誠心を日本中に拡充し、国民として一つとなるよう、神道によって「国民教化」を目指し「大教を宣布する宣教師」を配置しました。まさに「意識改革運動」であり、これは神道が主で、仏教は従の関係であることを示したのです。ここで現人神(あらびとかみ)たる天皇崇拝が完成し、国家理想観と結びついて王政復古が形となり、近代日本が始まっていきます。この頃、世間で注目を集め、法廷でその能力を認められた霊能力者、長南(ちょうなん)年(とし)恵(え)がいます。謎多き方ですが、女生(おんないき)神(がみ)と呼ばれた大霊媒師(れいばいし)です。その能力はアポーツと呼ばれ、何もない空間から物体を現し、奇病や難病を治す「神水」を出現させることができたといいます。

福祉の世界では、日本で初めて成立した貧困者に対する救済法の恤救(じゅっきゅう)規則(きそく)があります(1874年)前文には「人民相互の情誼(じょうぎ)」とあり、血縁・地縁の相互援助による救済が基本原則にあり、「無告の窮民(きゅうみん)」に限って、やむを得ず公費で救済する制限的救済でした。施行後の動きとして1890年に第一回帝国会議に提出された「窮民救助法案」があり、災厄のため自活不能となった労働能力ある窮民も対象とし、市町村の救助義務を認めた進歩的なものでした。しかし、公的な救貧制度は未整備であったため、民間の宗教家や篤志家(とくしか)がそれを補ったのです。石井十次は岡山孤児院を設立(1887年)石井亮一は孤女学院(後の滝野川学園)を、山室軍平は救世軍日本支部で活動を展開(1895年)しました。留岡幸助は、不良化した少年教育のための家庭学校(現・北海道家庭学校、児童自立支援施設)を、野口幽(ゆう)香(か)と森島美根は、幼稚園を貧困家庭の子弟家庭にまで拡大する意図で二葉幼稚園(現・二葉保育園)を創設し、また、片山潜がイギリス型のセツルメントを模し、神田三崎町にキングスレー館、渡辺海旭が底辺労働者のために浄土宗労働共済会(1911年)を深川に設立しました。

明治政府は国家神道を一神教にするべく、天理教をはじめ、大元教、黒住教や金光教の存在に目を光らせていました。当時の日本は過激であり、日比谷焼打事件や大逆事件、学制反対一揆など騒乱、事件が多発していました。なかでも大本教は素戔嗚(すさのお)(男神)を主神としていたので、天皇家の天照大神(女神)より優れているという男尊女卑(だんそんじょひ)の視点が理由で弾圧されていたようです。明治政府は大政官布告(集会条例・新聞紙条例・出版条例)で規制を強めていきました。この頃、全国的に統制された組織はなく、政党や宗教も目新しいものばかりであり、明治政府には危険反乱分子に映ったのかもしれません。しかし、精神的な受け皿を必要としていた国民は、自ず(おの)と拠り所を宗教や大自然に求め、山岳信仰や精霊崇拝も形作られていきました。

日露戦争中・戦後、財政難に苦しむ政府は、天皇を中心に家族国家観の浸透を目指す「感化救済事業」を推進しました。そうしたなか、非行少年の教育を目的とした感化法が制定され、不良・犯罪少年、親による懲罰として懲戒場に入れられる少年の処遇機関として感化院が設置されたが、同法の第一義的目的は、不良少年の矯正よりも治安維持に目的があり、親や子供の権利も保障されない行政処分によるものでしたが、日本で最初の社会事業施設でした。民間社会事業に対して公的部門が介入したケースは大都市や地方でも見られ、辛亥救済会や小野慈善院は典型的でした。また、天皇の「下賜金」に基づく「恩賜財団救生会」が設立されました。当時、東京帝国大学文科大学の福来友吉博士が驚異的な透視能力を持つ一人の女性を研究対象とし、実験を進めていました。その人物は、映画「リング」で貞子の母親、山村志津子のモデルになった御船(みふね)千鶴子(ちずこ)です。第一次世界大戦により、社会的不平等が拡大したことで貧困問題を深刻化した背景の元、軍事救護法(1917年)が公布されました。これは富国強兵を強調した軍人本位の施策でした。戦後、不況や関東大震災、世界大恐慌が波及し、失業者が増大する中、救護法(1929年)が制定され、公的扶助義務主義にたち、医療・助産・生業扶助など扶助内容を拡大しました。母子保護法(1937年)、社会事業法の制定、任意の国民健康保険法(1938年)、医療保護法(1941年)などが整備されましたが、戦争遂行のための人的資源の確保と健民建兵政策の強化であり、軍事政策の一部に組み込まれた「戦時厚生事業」でした。

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